犬の縫合糸反応性肉芽腫 縫合糸を体の免疫機構であるマクロファージが攻撃してできる瘤

まず肉芽腫というのは、慢性的な炎症がマクロファージ(白血球の一種)により引き起こされ、瘤状を呈する物を言います。
瘤や腫、と付いていますが癌では無いのがポイントです。

そして、題名で縫合糸反応性と言っている通り、糸に反応して肉芽腫が出来ます。

この肉芽腫の変わっている所が、例えば避妊手術などで卵巣を取るために、その近くの血管を糸で縛ったりしたのに、縛った場所だけでなく、胃や腸に肉芽腫ができたりすることもあるところです。

特に人工的な糸で無く、シルクなどの動物由来の糸で、ワンちゃんが起こすのが特徴です。
ただし、きちんと予防をしていれば、発症することはほとんどありません。

シルク糸で腹部内を縫合したり、血管を結紮したりするのは人でも猫ちゃんでも普通に行われることですが、縫合糸反応性肉芽腫を起こすのはほぼワンちゃんです。

人や猫ちゃんでも起こることがある、とは言われていますが、起こることが非常に少ない様です。

この病気は、大抵シルク糸がワンちゃんの免疫に反応して起こるため、当院ではワンちゃんのお腹の中を縫合する時は、合成吸収糸やナイロン糸を使用しています。
たまに、手術時のガーゼを取り忘れて非常に大きな肉芽腫を形成することもあるそうで、以前、当院に元気が無い、と来院したワンちゃんのお腹をエコーで診た際に、大きな瘤があったため、取り除いたら中にガーゼが入っていた、ということがありました。
飼い主さんにお話を聞くと、少し前に他院で避妊手術をした、と言っていたため、取り忘れが発覚したこともあります。

人間の手術では、ちゃんと使ったガーゼの枚数と、取り出したガーゼの枚数を数えるそうです。

そして、縫合糸反応性肉芽腫の続きですが、気づかずに放置していると、肉芽腫がどんどん大きくなって、発熱を起こしたり、時には臓器に浸潤して、その臓器をダメにしてしまうこともあります。

具体的に言うと、炎症により腎不全を起こしたり、膵臓や肝臓に炎症を起こしたりすることもありまし、胃や腸粘膜を閉塞させたりもします。

完治させるには、根本的には糸自体を取る必要がありますが、場所的に困難なことが多いです。
縫合糸反応性肉芽腫になってしまった場合、根本的な改善にはなりませんが、内科療法でステロイドや免疫抑制剤を使用することで、炎症が抑えられ、肉芽腫そのものが小さくなる、発熱が抑えられる、などの一時的ですが症状の改善が認められます。

自己免疫疾患と同じで様な機序で発症するからでしょう。

最後に、先ほども記載した様に、縫合糸反応性肉芽腫をできる限り発生させないように、ワンちゃんではナイロン糸や合成吸収糸を使用していますが、それでも100%病気が予防できる訳ではありません。

ナイロン糸を使用した上で、縫合糸反応性肉芽腫を発症してしまったワンちゃんにかち合った知り合いの先生もいます。

腎不全や胃腸の閉塞、肝炎膵炎を起こすこともあると書きましたが、かならず前兆があるはずです。
ステロイドが必要な生活になってしまう可能性もありますが、早期発見で最悪の事態を逃れることができる病気です。

あくまで、めったに起こる様な病気では無いのですが、知っておいた方が良いと思い、今回ブログに載せました。

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