150年ずっとわからなかった!何で麻酔を使うと気を失うのか(付け足し)
タイトルの通り、一般人からするとビックリするとは思いますが、エーテル(かなーり古い全身麻酔薬。安全性は今の麻酔より低く、下手な医者が使うと死人も出た)を使っていた150年前からつい最近の安全性の高いセボフルランやプロポフォール(マイケルジャクソンが医者に間違って大量投与されて亡くなってしまった麻酔薬です)が使用されるようになっても、何で麻酔薬で麻酔としての効果が出て気を失うのか、つい最近までわからなかったんです。
ちなみに全身麻酔というのは眠っているのとは全く違います。
睡眠の場合、なんだかんだ言っても、脳は活動してて、いきなりメスで傷をつけられたりすると、痛みで目が冷めます。
一方で麻酔をかけた場合、脳もほとんど機能を止めた状態になります。
臨死体験をした人に聞くと、麻酔はねむると言うより、死に近い感覚をおぼえるそうです。
つい最近まで、と言いましたが、実際に何で全身麻酔で意識を失うのかが分かったのは3年前です。
上記の通り、なんで効くのかわからずに使用されて来たわけですね。
そして、世界初の全身麻酔が使用された手術が行われたのは何と日本!
華岡青洲と言う医者が、乳がんの摘出に成功しています。
その頃の全身麻酔はトリカブトやチョウセンアサガオを主成分としてた様ですね。どちらも毒草です。
でも実験のために自分の母親を死なせており、奥さんを失明させてしまっています。
僕がこれを大学の授業で初めて聞いた時、おいおい、罪人とかを実験に使えよ!何で家族を実験の材料にした?と思った記憶があります。同意はあったそうですけど。
こうして日本で世界初の全身麻酔薬が発明されたわけですが、日本は当時、完全鎖国時代!
初の全身麻酔法も他国に知られることは無く、華岡青洲が全身麻酔法を確立してから40年ほど遅れて、アメリカでジエチルエーテルによる全身麻酔法が誕生しました。
このジエチルエーテルの全身麻酔法、アメリカの禁酒法のせいでアルコールの主成分であるエタノールが飲めないから代わりに飲まれ、痛みを感じなくなることから発見されたようです。エタノールよりも毒性が高いんですけど。
ドラマにもなった漫画の「仁」ではこちらを使用していましたね。
このように全身麻酔が誕生するまでは、外科手術は最後の手段。
酒で酔い潰させて手術することもあったようですが、はっきり言って拷問同然。
当然、あまりに酷い激痛があったため、外科医の能力は丁寧さより速さが命だったようです。
それで、麻酔が効果を出す理由ですが、あまりにも説明が難しいので、調べてみていただければと思います。
安直に言ってしまうと、本来なら閉まっているはずの、細胞に付いている門をこじ開けることで意識を保つために存在している物質が細胞外に出て気を失う、と言ったところでしょうか。
本来ならこの細胞にある門が閉まっていることで、意識を保っていられる訳です。ですが全身麻酔薬はこれを無理矢理こじ開けることができる。そして全身麻酔効果を及ぼす訳ですね。
うん、やっぱり分かりにくい。
当然ながら麻酔は用量や、安全性の高い薬を使用するのが常識です。
漫画の「医龍」では、7秒で麻酔を効かせるのが最高の麻酔医、と言っていましたが、実際には麻酔前投与薬という、全身麻酔薬を投与する際に安全性を上げる薬が先に使用されます。
例えば、
動物園から逃げ出したライオンなどに使用する麻酔薬は、とんでもないほどの即効性がありますが、それだけの麻酔薬が使用されているということです。
前投与薬も使用できないため、万が一死んでしまったとしても危険だからしょうがない、という感じで使っているのでしょう。
しかもあの麻酔銃、射程距離が10メートルちょっとしか無いんですよね。撃つ人も近すぎて怖いでしょう。
前投与薬を使用しないガス麻酔やプロポフォールによる点滴麻酔は呼吸抑制効果が高く、それを防止するために前投与薬が重要になってきます。
マイケル・ジャクソンはそのただでさえ呼吸抑制を起こしやすいプロポフォールを、間違って大量に投与されてしまったから亡くなってしまった訳です。
正直なところ、眠るためにプロポフォールを使用する、というのはとんでもないことなのですが、それほどに睡眠障害が酷かったのでしょうね。
蛇足ですが……
漫画のコナン君はガンガン小五郎に麻酔針を刺していますが、人間の大人にあれだけ即効性がある上に、通常は分量も良くわからないはずの薬を気軽に使用しています。
真面目に言っちゃうと、小五郎はいつ死んでもおかしくないことをコナン君にされてるわけですね😅
怖い怖い。
麻酔の効き安さは、年齢や体の脂肪の多さでも大きく変化します。
党員では麻酔前投与薬として、かなり安全性の高い、マルチモーダル法という、数種類の麻酔薬を低用量で使用する、という方法で行っています。
以前、このかなり安全性の高いはずであるマルチモーダル法の前投与薬を使っただけで、完全に意識を失ってしまった18歳のワンちゃんがいます。
通常ならこの麻酔前投与薬のあとにガス麻酔による眠りの維持を行うのですが、ガス麻酔を使うまでもなく、なんの痛みも訴えずに、ワンちゃんが寝たまま手術が終わってしまいました。
それほど麻酔の効果というのは個人差が出るということですね。
追記
麻酔は中途半端に効かせると、術中はしっかりと眠っていても、目が覚めた途端、手術中の痛みが一気に押し寄せてくる、ということがありえるそうです。
当院では通常の痛み止めの他に、頭から痛みを感じさせる物質が出るのを、シャットダウンさせる麻酔薬を使用しています。
また、中にはそういう薬が効きにくい子もいるので、そんな時は先ほどのマルチモーダル法を使用しています。この方法は、痛み止めにも使えるためです。
術後の痛みが少ないほど、回復も早いという論文も出ているため、痛みを抑えることには十分注意して手術などを行っています。
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