フィラリアが完全に成虫になった後の治療法

フィラリアが成虫になると、肺動脈に食いついて、そこで栄養を吸収したり、オスメス揃った場合は大量の卵を産んで、ワンちゃんの血液中にミクロフィラリアと呼ばれる幼虫が溢れかえります。

どのくらい大量の子供を産むかというと、以前、検便検査をした際に、その中にミクロフィラリアがいたためにフィラリアが感染していることがわかった、ということがあるほどに全身に巡っています。

そして、フィラリアが大量に感染し、成虫も大量になった場合、肺動脈では収まらず、右心にまで溢れてきます。
こうなると、あっという間に右心不全になって腹水が貯まりはじめます。

この最終段階まで行った場合、治療法は外科的なフィラリア摘出手術が必要になってきますが、ここに至るまでに相当肺動脈および右心はダメージを受けているため、摘出しても生き残れるかどうかは損傷の度合い次第になります。
当院ではそこまで悪化した例は出ていませんが、千葉市内では手術した上でお亡くなりになった例が最近でもみられています。

では、当院でも良く発見される、成虫の少数感染の場合の治療法に関してお話しようかと思います。

少数感染でもミクロフィラリアは全身に回っており、こういう状況でいきなりフィラリアの駆除薬を使用すると、ワンちゃんがアナフィラキシーショックを起こすことがあります。
数年前までは特にこれ、という治療法がなく(世界中の獣医師の間でも決まった治療法というものはありませんでした)、当院ではアナフィラキシーショックを防ぐために、一週間ステロイドを使用してもらい、その半ば、3日目あたりにフィラリア駆除薬を使用してもらっていました。
この方法はフィラリアを弱らせて、ミクロフィラリアを産めなくさせ、徐々にフィラリアを駆除していく、ということで、それなりに時間がかかり、1年で治る子もいれば、治るまでに3年くらいかかる子もいました。

ですが、現在ではフィラリアをより徹底的に研究された結果、フィラリアは体の中にボルバキアという細菌を飼っていることが判明しました。
なぜ飼っている、という表現なのかというと、このボルバキアという細菌がメスのフィラリアの中にいないと、子供を作ることができないことがわかったのです。
つまり、このボルバキアがフィラリアの生殖を手伝っていたんですね。

という訳で、フィラリアを退治するにあたって、ボルバキアを退治すれば、フィラリアは子孫を残せません。

そこで考えだされたのが、ドキシサイクリン療法です。
ボルバキアはこのドキシサイクリンという抗生物質に弱く、使用することで退治できます。

ただ、残念ながらこのドキシサイクリンを使った治療法のマニュアルはまだ確率しておらず、ある程度の期間ドキシサイクリンを使用してからフィラリアがまだ存在するかを検査。
まだ生きているなら、再びドキシサイクリンを使用してから再検査、という効率の悪い方法しかまだ存在していません。

数年後には、このドキシサイクリンを使用したフィラリア駆除のプロトコルが出来上がるかと思いますが、どのくらいになるかは、研究職に付いている獣医師の努力次第でしょう。

ステロイドを使用したフィラリア駆除にはまだ危険性があり、フィラリア陽性の子には、すぐに当院に連れて来れる日にフィラリア駆除薬を使用するようお願いしていました。

ですが、このボルバキアを退治する方法ではより安全にフィラリアを駆除することが可能となっています。

他院から来た患者さんや、他の獣医に聞くと、まだステロイドでのフィラリア駆除を行っている所はいくつもあるようですが、ちゃんと勉強している病院ではボルバキアの退治をするようになっているはずです。

まだどれだけ長く使用する、などは解明されていませんが、それでもより安全にワンちゃんを治すことができるようになったのは大きな進歩だと思います。

フィラリアは当院でも年に2〜4頭は感染犬が見つかりますが、3年ほど前に大日町で多頭飼育をしている家で集団感染が見つかりました。
予防も適当で、検査してフィラリア陽性だったにもかかわらず、治療しようとせず、その後の毎年の検査にも来院していないため、今頃どうなっていることか。

今年も毎年のようにいる、フィラリアの予防薬を1,2ヶ月分しか持っていかない人や、室内外で外に出ないから検査や予防もしない、という方がそれなりにいます。

ですが、毎回話している通り、予防しなくてもワンちゃんがフィラリアに感染せず元気でいられるのは、周りの飼い主さん達がしっかりと予防しているからです。

当院でのフィラリア検査の結果から、横戸町と大日町にはかなりたくさん、内山町にはそれなりのフィラリアが潜伏していることがわかっています。
その程度の距離、蚊からすれば大したことは無い距離です。

周囲の予防しているワンちゃん達を越えて血を吸う蚊もそのうち出てくるでしょう。
しっかりと予防していない方は検査で陽性になってからでは、遅いのだと、よく考えておくようにしましょう。

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