肝臓癌、胆管癌、膵臓癌、脾臓の癌(どれも沈黙の臓器と言われる所)

これらは人間でも有名どころの腫瘍になりますが、人間と同じように、肝臓癌(肝細胞癌)の場合、どんどん大きくなっていきますが、発症後も長生きできる子も多いです。
中にはお腹が肝臓で大きくなり過ぎてパンパンなのに元気、といったすごい子もいます。

胆管癌も肝臓にできる癌ですが、エコー上でも見た目がおかしく、弓矢の的の様に見えることが多いため、標的状、と表現されたりします。
肝臓自体は沈黙の臓器、と言われて腫瘍が発見しにくい、ということもありますが、胆管癌は進行が早く、転移も高頻度で起こり、あっという間に肝臓をダメにして、気付いた時には黄疸が出ており、もう手遅れ、という危険な腫瘍です。

そして脾臓の腫瘍です。
リンパ球が集中していることもあり、リンパ腫を起こすことも多いですが、最も有名店なのはゴールデンレトリバーの血管肉腫でしょう。
名前の通り、血管が癌化したもので、遺伝的にゴールデンレトリバーの発症率が高いのが特徴です。
ポイントはエコーで発見しやすく、転移前に脾臓ごと摘出手術してしまえば、完治します。
厄介なのは、癌では無い血腫(血液と血管が瘤状になったもの)と間違え安いところでしょうか。

血管肉腫だと思って、摘出したら、血腫だった、ということはよくあります。
ただし、血腫は腫瘍では無いとは言え、破裂して本人が出血で死亡することもありえますので、脾臓にそれらしい瘤ができた時点で摘出するのも一つの手段です。

脾臓の摘出自体はそこまで難易度が高くないため、可能性があるなら摘出するのもあり、と言えます。

例えば、以前紹介した病理学検査をしてみるのはどうか?と思う方もいるかと思いますが、それが血管肉腫だった場合、刺した所の皮膚に転移してしまうため、生検(瘤から細胞を取ること)は禁忌とされています。

最後に膵臓癌ですが、人と犬の膵臓癌は全く異なります。
人の膵臓癌は膵管という部分から発生する、腺癌、というものが多いです。発見は難しく、見つかった時点でほぼ死亡が確実視されるほどの悪性の腫瘍で、腹痛、背中や腰の痛み、黄疸などを起こします。

一方で膵臓β細胞、というインスリンを分泌する所が癌化することもあるのですが、こちらは良性であることが多く、治療が可能です。

ですが、ワンちゃんの場合、この膵臓β細胞が癌化するインスリノーマという腫瘍があるのですが、ほぼ悪性です。ただし、非常に珍しい腫瘍です。
エコーなどでは発見することはほぼ不可能で、インスリンの過剰分泌による低血糖、つまりは低血糖性けいれん、初期の過剰な食欲の他、低血糖による運動失調、ふらつき、反応の低下が特徴です。

発見した段階で転移していることが多く、近くのリンパ腺、肝臓などに見えない転移をしていたりします。
人間の様に検査で発見されるのではなく、症状と血液検査での低血糖で発見されることがほとんどなため、膵臓の摘出、という選択肢が取られることはまず無く、分泌されるインスリンに対抗して、血糖を上げるための内科療法が行われます。

ですが、手術をしなかった場合、余命は非常に短いですが、手術をした場合、数回の減容積手術(すべてを取り去ることができずに、腫瘍の体積を減らす目的で行う手術。一般の個人病院ではあまり行われることは少ないかと)を行うことで、中央生存期間が一年ほどに伸びるとも言われています。

ただし、肝臓や肺に転移していた場合、手術は困難になるかと思います。

以前、内科療法を行ったワンちゃんを診ましたが、最初のうちは低血糖が改善し、元気になった姿を見せてくれましたが、低血糖の症状が進行し、けいれん発作が止まらなくなり、安楽死をすることになりました。
内科療法だけの場合、中央生存期間は2ヶ月ほどだそうです。

インスリノーマは最終的に低血糖が強く出るため、けいれん発作を起こすことが顕著で、飼い主さんが見てられない、ということで安楽死を選ぶ、ということが多いようです。

先程から中央生存期間、と言っていますが、これは寿命の平均値、というわけではなく、その集団の中で、50%の患者さんが亡くなるまでの期間を言います。
少し難しいかと思いますので、ネットで調べてみるとわかりやすいかもしれません。


今回紹介させていただいた腫瘍は、どれも沈黙の臓器、と言われる臓器の腫瘍に当たります。どの腫瘍も発見が難しいのですね。
ただし、血管肉腫は他の臓器を調べている時に発見されることが結構あります。

その他に挙げた腫瘍は手術自体も難しいですが、脾臓の血管肉腫の場合は早期発見で脾臓ごと切除すればその後も元気に生きていくことができます。

現在、毎月心臓と腎臓の嚢胞を検査しに来ていらっしゃる方がいますが、同時に脾臓も検査していますので、もし腫瘍ができてもすぐに取り去ることができるでしょう。

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