去勢手術の直後に、手足が動かせなくなるほどのてんかん発作を引き起こしたワンちゃん
これは年末年始に起きたことなのですが、かなり太った子の去勢手術を行うことになりました。本来小型犬に分類される犬種のはずなのに、13キロあるワンちゃんです。
手術自体は簡単で、時間もあまりかからずに終わったのですが、よりによって、術後から目も覚めて元気に動いていたのに、二時間後くらいに突然酷いてんかん発作を起こし始めました。
それだけならてんかんを止める薬でなんとかなるのですが、その薬でも発作が収まらず、強力な鎮静剤を使用してやっと発作が収まる、という状況でした。
しかし、また一時間ほどでしょうか。薬の効果が切れる頃に再びてんかん発作。
こういう、何度も繰り返すてんかん発作を重積発作と言うのですが、それも普通なら、一度発作を止めれば、また起こす、ということはまず無いと言っていい、珍しいことでした。
しかもその後、その子は手足が動かせなくなってしました。
てんかん発作自体は素早く止めたのに、症状がおかしかったため、他の先生方にも状況を相談してみることに。
結果、大多数の先生が、かなり太っている、手術により、血圧が一時的に下がったのは確か、などの理由から脳血栓症ではないか、と判断しました。
つまりは人間で言う、エコノミークラス症候群です。
まだ、症状が出始めてから時間は経っていないため、急いで血栓症の時に使用する、ヘパリン(低分子)を使用し始めました。
その後も発作は繰り返し起こっており、薬で止める、しばらくして発作がまた起こる、薬で止める、発作が起こる、を繰り返し、3日ほどは薬の効いている一時間程度の間は仮眠を取り、すぐ起きる、という生活をしていました。
心配なのは飼い主さんもです。
ただの去勢手術だと思っていたのが、脳血栓症を起こし、頻繁に発作を起こす。
発作が止まっている時もまともに動けないのですから、怖いにも程があったでしょう。
しかし、すぐにヘパリン治療を開始したおかげか、3日目辺りからは手足や口を動かせる様になり、5日目には自分でご飯を食べたり、立ち上がったりしてくれるようになりました。
大体10日目には、少しフラつきがありますが、ほとんど普通に歩けるようになっていました。
心配でしたので、その一週間後に再診をさせてもらったところ、完全に元通りです。
通常、ここまで酷い血栓症+重積発作を起こした場合、何かの後遺症が残るのですが、すっかり元気な様子を見せてくれました。
あの時ほど安堵したのは久しぶりです。
元気な子を手術したのに、大惨事。
ただ、以前にも代診時代、12キロという、とんでもなく太った猫ちゃんの手術を行った際、やはり同じように術後しばらくは普通に元気だったのが、突然泣き叫びながら暴れだし、ぱったりと死んでしまったのを見たことがあります。
その時の院長先生の考えも、心臓への血栓症による心臓麻痺が一番疑わしい、とのことでした。
人間でも、太っている人は、体重を減らしてから手術をしましょう、とよく言われるように、過剰に太っているワンちゃん猫ちゃんも、エコノミークラス症候群になりやすいようです。
同じ体勢でいる、というだけならまだ平気なのでしょうが、エコノミークラス症候群の原因として、水分をしっかりと取らないこと、血流が悪くなること、体を動かさないことが理由として挙げられます。
これは術前の、麻酔によって起こりうる誤嚥性肺炎を防ぐために、水分を少し制限する(通常、点滴で水分の補給をするのですが、去勢手術程度ではそこまでやりません。皮下点滴、という皮膚の下にリンゲル液を入れて、吸収させる、ということはやります)、麻酔をかけると血圧が下り、血流が悪くなる、手術のために体を固定する、などのエコノミークラス症候群を起こす要因に当てはまっているのではないかと思います。
これらだけなら、普段からたくさんの手術を行っても同様なことが起こっていないため、極端に太っていることが、一番大きな理由なのかもしれません。
今後、極端に太っている子の場合、痩せさせてから手術を行うようにするかもしれません。
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