腫瘍、抗がん剤あれこれ(書き直し)
おそらく詳しく説明しようとすると、一番難しくて、獣医である僕本人も難しいと思っているのが、癌に対する抗がん剤治療に関してでしょう。
まず、抗がん剤に対して効果の期待できる腫瘍は、リンパ腫、白血病、肥満細胞腫の3つくらいだけで、他の腫瘍にはほとんど効果が認められない、(勘違いさせてしまいました。他にもいくつかありますが、この3つが代表だと思ってください)というのがポイントです。
この3つと他の腫瘍が違うのは、前の3つは血液に関する腫瘍だということです。
まず、リンパ腫、白血病に対してはウィスコンシン大学の抗がん剤治療プロトコルが存在しており、要はマニュアルがあって、その通りに治療していけば問題ない、というありがたい治療法があります。
大体、リンパ腫、白血病は無治療でいると、生存期間は1ヶ月程と言われていますが、抗がん剤治療の効果によっては、その後数年単位で生きてくれることも多いです。
そして、肥満細胞腫は難しい腫瘍です。
同じ肥満細胞腫に分類されていても、良性で手術すればすぐ治るものから、ひどい悪性で、完全に取りきれたと思っても見えないタコの足を伸ばしているかのように、再発、転移、更に広範囲に広がったりすることがあります。
この腫瘍に対して重要になるのが、グリベックという抗がん剤です。
このグリベックは肥満細胞腫に対して、強い効果がある可能性があり、完全に治してしまうこともあります。
ただ、問題なのは、効く、効かないが大体五分五分だということです。
これは肥満細胞腫の中に、グリベックの効果を決定するとある遺伝子があるか無いかが理由になります。
グリベックが効かず、高い悪性度を持っていた場合、手術してもほぼ治らないし、他の抗がん剤は効果がほとんどありません。
ただし、このグリベックが高い効果を示す、例外の癌があります。
良く盲腸に出来る、消化管間質腫瘍GISTと言われる腫瘍です。
外見的に平滑筋肉腫と区別がつかず、普通の病理学検査所ではこの二つを区別する検査はしてくれませんので、外科的に摘出してからグリベックを使って、転移するかしないか、くらいでしか、推し量ることができません。
ですが、とあるいくつかの論文で、盲腸にできた平滑筋肉腫と思われていた腫瘍はほとんどがGISTだったという報告があります。
大きな難点はグリベックがかなり高額というところでしょうか。
そして他の残りの全腫瘍に関してです。
基本的に抗がん剤は効果がありません(完全にないわけではありません)。
人間のように完全滅菌室が無く、免疫力がなくなるほどの抗がん剤を使用すると、腫瘍ではなく、病原菌感染で死んでしまうからです。
先ほど抗がん剤が完全に効果がないわけではないと言ったのは、一つ例として、フラットコーテッドレトリバーの関節に非常に多く発生する組織球肉腫(良性の組織球腫とは別物です)は発見されてから、予後は30〜40日と言われていますが、先ほどのウィスコンシン大学プロトコルでの治療で、寿命が120日くらいに伸びますし、CCNUという抗がん剤でも同程度の効果が認められます(内服薬で使いやすいですが、日本では売ってなく、しかも副作用がかなり強い)。
そのため、人間のような抗がん剤の使い方はできないため、基本的には腫瘍は小さいうちに切除するのが一番だと言われています。
基本的にほとんどの腫瘍は3センチが転移するかしないかの境界線と言われていて、3センチを超える前に切除するのが良いでしょう。(例外としてワンちゃんの口の中の黒色腫などは2センチが要と言われていますし、早い切除を心がけることに違いありません)
特に避妊をしていない、または2回発情が来るまでに避妊をしなかった、猫ちゃんのお腹側に出来る瘤は、ほぼ100%悪性の乳腺癌です。
どの腫瘍でも体表にできたものが大きくなると悲惨になります。
腫瘍の表面は破れ、肉が壊死し、ばい菌に感染してグジュグジュになって、酷く痛むようになります。
最後になりますが、最近はカルボプラチンという、銀が使われている抗がん剤や、新しい遺伝子標的型の抗がん剤が増えてきています。
どこまで、効果があるかはわかりませんが、多少なりとも余命を増やし、苦しさを和らげることはできるかと思います。
ですがあくまで抗がん剤が効きやすい組織球肉腫などの腫瘍から余命を少し伸ばしたり、人間の医療でやるように、切除手術をしてから、抗癌剤治療を行う程度になります。
抗癌剤治療に強い先生達の治療方法もまちまちで、色々なプロトコルが存在していますが、ウィスコンシン大学プロトコル以外では、これは良い!とまで言える方法はあまりありません。
ここでは簡単な抗癌剤治療に関して書き記しましたが、ネット上ではたくさんの情報が書かれています。
中には眉唾なものもありますし、きちんとした、獣医としての腫瘍の専門医の言葉も載っているかと思います。
ですがやっぱり、癌に対する一番の治療方法は切除ということになります。
中には体の中の腫瘍が転移しすぎて、治療はもう不可能ということもあります。
ネット上の情報は本当、嘘、入り混じっていますので、困ったことがあれば相談していただければと思います。
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